紅葉坂西日に向かいのぼり坂たんぽぽの茎のびて石畳

蝉の子が夜の電車に乗り込んで長い光の旅路かな

泣く子がおりぬちいさくありぬ朝のふとぬけるような静けさ

母と子が行水をする盥水落とす雫に子が笑い

月影という和紙に月あるようなほのじろき明かりかな

人骨は土を抱きてうもれていたり海辺の音をとおく聞きつつ

前足を左右にひろげて葉をつかむこんな形の蝉が生まれた

うねりくる空気色した線のなか人型をくずされてゆく人間たち

生きることかなしくもあり出会うことせつなくもある金木犀

すっくりと黄の光をあててみる坂道にある夜の糸杉