菜の花の丘より海をながめつつ波の頭はかすみて光る

花びらの風となる午後の道ひとひとりの歩みをふくむ

立ち葵夏の空気をほつほつと咲きてこぼれつ

小川へと山吹の花おちて傷口ひとつ風はふれ

散りながらわずかな刻を数えつつ鳩の頭の動く日溜まり

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かげろうの尾の風に夏を待つかなかきつの細葉

ふいに降りはじめた雨音の音なる前の雨のまるさ

風が吹き竹のさやぎに落ちてくる墓石の角かする音

花びらの飛んでゆきたる雌しべ雄しべも枝の先なる

桃色の花をはめ込む夏空に再び会う人の来る

岩つたい草苔つつみしたたるを陽の中に水音のこし

ふくらみ続けた重たさに伸びてゆけり秋の庭の青瓢

細道の店の裏手を開け放ち蕎麦屋は笊を裏返す

木槿から生まれるかに蟻の子はひとつ花びら越えて出る

つくつくと茶髪の先を尖らせて広がる風のなかに立つ

群れ人をかきわけてゆく白シャツの肩の広さに風ふくむ

電線をこえてポプラの並び立つ国道沿いにこもる夏

山吹の花のあたりのめぐりかな細道にひと見えなくなりて

くもの巣は木の間の風を掬いたりくもの手足のひろがりほどの

樹の根草の根岩肌とゆるゆる時の雫がつたう

木槿の風がなびく道人語り離れてゆけり

墓はほそくのびゆきて竹さやぎ継ぎゆくは風の足音

桃の花くもりの空にひとひらひとひらもたげてきたる

連翹の息吹く垣根人病みて起きてしずかに立つまでの

夕闇のせまるを見つつ柱の時計いつよりか　忘れた振り子

ついと蘂だす夏空に白木槿向かいつしぼむ

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つつじのつぼみたしかにふくらみぬうすくらがりにべにの突く

芭蕉の葉風吹くままに葉のさけて寺の屋根にかかる薄月

人肌をつたう汗が土に落つ糸とんぼ岩握る

桃の実に雨降りてのちの雫かな薄毛にのりて風のなか

ガラス窓糸瓜の蔓の空高く透きゆくものを流せり