木蓮の巣にぶらさがる枯葉かなもどらぬ鳥のひとつ空

ふいに黄ばみはじめた蓮の葉に風のおこりて水面に光

雨の匂いに満ちて木賊をつたう緑のしずく

とがりつつとがりつつ毬栗の丸くなる道

手のひらに掬いて小雪　たそがれの薄き冷たさ

つららののびるよるに星ひとつながれおつ

夕焼けをひらくように門をひく祖母のとける輪郭

風雨の晴れ間に　蝶飛んで蜜を吸う

花一輪咲きかけて散る散ってはなびら影の上

水仙の群れ咲く足もと人死んでなくなるまでの香かな

黒土の上のみどり葉噴水の音をつなげて和尚の木魚

丘に残った星空にひとつふたつと指さしてゆく

芭蕉の葉しずかな時をおくり出す彼岸真中にのぼる薄月