真直に海の窓へと歩み寄る人の呼吸の大きく乱る

帽子を脱げば汗流るるままの前髪垂れており

たぶん角を曲がるを厭いつつ来たるかなまっすぐに男の歩み

東天紅の踏み足をついと上げ風に首をかたむけて

咲く菜の花の海原にひかりのかしぐゆれのあること

海とおく言葉投げかけゆるやかに問いつつ戻す声太く

みなぞう海豹腹転がりて夕方の海の音など聴いていた

水面のそばにおりたりひとびとのざわめきにしずかに息す

太きもの抱きいるかな話し出す煙草のけむり吸う長さから

繰り返しカレーを飯にかけながら転がる海老にまたかけながら

迷いつつ迷いつつ来たる男の確かさに煙草の吸殻重ねられ

甕酒は藍色底の透明のとろとろ酒の動くあたりに

水深き暁の空気の色をして海月の息は白々とゆれ

波の間に消え入るか海月の頭の波うつ動き

輝きを集めて放つ群れ鰯ゆく潮ののったりと不透明

同じ形同じ泳ぎの大群の　光　の内に身を変える魚たちは

群れながら泳ぎ続けて先頭のわからぬままの青き輝き

深くふかき呼吸の色のとけるほど海月の藍は波うつ

海底の潮の流れも海草の襞の波に伝えられ

しずやかに青を縁どる犬ふぐり咲く土に風過ぎて戻らぬ

道端の路肩に沿って歩みおりひとつひとつの言葉を探し

言葉をつぐみとおくを追いぬ振り返りざま背に海を乗せ

海へ向け問うように話し出す男の声は空気を含む

磯辺を歩む蟹の足つと止まりて黒目を立たす

みずからの長い触手をからめつつゆく潮の波に融け

水に生き水に泳ぎて魚たちの群れゆく先を見てない目玉

生きゆくことの傾げて問いぬ　問いてかしげて

水族の呼吸も人の吐く息も体の波打つうちより出でて