高橋みずほ歌集『蠢く』（装幀：間村俊一／写真＆栞：今森光彦）

■歌集『蠢く』抄

蝶が来てそっと玉を抱いている燃える夕陽になるまでとまる

春の虫風にゆれとんでるようなゆれいるような

雨がぽつり　葉を打ちながれて雨が　ぽつり

太古のはるか風のなかなる麦の穂が光に立ちぬ

すっくりのびる影法師おまえはだれだかたむく陽のなかにいて

　映像詩という言葉に出会った。画面には水が張られた田圃、その間にほつほつと屋敷林をもつ農家だろうか、暗い空間が点在していた。明け方か夕方の光、それを吸い取った水の輝きは空間の暗さひとつひとつを動かし始める。映像が詩を語り出した。
　里山は「縁側のような空間」だと話された。内と外、人間の暮らしと自然が重なり合う場所。自然と人が対等に在るところ、寄り添い合うところ。そしてあわい空間、あわく形作られてゆくものが確かさとなってゆく。その大地の土は臭う、「野菜の腐ったような臭い」がするといわれた。肥沃、堆肥、下肥、肥土……、肥えたものには腐るまでの長い時の臭いがあることをカメラのレンズをとおして伝えてくる。瞬時の形は、見る者の目のなかで動きとなって、臭いを放ち、蠢いてくる。
　この言葉のなかに出会うことができた写真家・今森光彦さんに栞をお願いした。歌集をずっと受け止めてくださっていた。静が動となる一瞬を追い続ける眼差しに、私もここに短歌を作り続けることの勇気をいただいてきた。
　里山の空間は、短歌の言葉の空間と重なる。この空間に気づいたとき、繋がり合うことの喜びとなり、心が躍る。

（「里山の詩空間」）

歌集『蠢く』（短歌研究社）