春の夕焼け空の下香の荷の届く台所

すっぱさも黄の内より香たつ薄き袋の滴のなかに

丸池の蓮の広葉も午後の日差しを透かしおり

梅の花びら流れてゆけり丘へとのぼる風の中ほど

青く太くとのびる空より降る雨に竹の葉のぬれて垂る

陸にあがった舟の行き場のなくて水溜り

竹林の細く細くぬける空間霧雨にぬれ立ちぬ

目の少しかすみて輪郭の危うきさまも確かさとなる

稲の青風吹くなかをゆっくりとゆっくりと 父の足

栴檀の葉のゆれとなる初夏の風めぐりてゆける雲からの

階段をのぼる母の小さくて紫陽花玉に滴はありぬ

父母のとどむるともなく足取りに菖蒲の風をふふませてゆく

竹皮を脱ぐ速さに伸びゆきて竹の林は育ちておるも