彫られて　人　かかげる傘　ビルの隙間の細道のなか

牛と牛 小突き合う角つなげられ版画の黒の浮き立つ形

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首筋に痒さあつまる夕間暮れ蜜柑若葉を噛む虫のあと

するりと手食器の棚にのびきたりひとつ器の花押さえ

右に肩の凝りもつ男いて西向く窓にけむりを吐けり

白百合のひらく匂いの初夏の垣根のうちの歩の気配

もみじ葉は流れに触れて風にゆれ底影も曳かれてゆきぬ

一本のホームの灯の下におりひろがりつ稲穂緑の淡々と

四月も半ばになりて見る桜ひと房ごとの日のくすみ

夕闇にのこるみどりの水田のはるか境に窓の家

栴檀の葉に揺すられて散る花びらにとおくよりの風

すっくりと栗色の髪を切り落とし肩にひろがる秋の夕焼け

灯のともる窓辺には影　ふいに蝉鳴く径におり

暮れゆく空の真向かいて蝉は手足をうつろにまわし

宵闇にほのか光を届けつつ電柱の上の電球

暗がりに振り返ればかそかなる髪の青年おおきなる手と

青栗のころがるさきのしずもりに杖つく音の近づけり

話しつつ睫毛をついとふせてゆく眼鏡の内にまなざしは消え

いつよりの響きかな　横向きの青年の喉仏

七夕の風にながれる吹き流し　幼くて手を広げつ

軒下の松葉の先に雨音の丸くなりたる雫かな

白いモクレンゆれ咲くころに金魚ちいさく泡ふたつ

稲刈りの終わるところに煙立ち人ゆっくりと畦道を行く

船底の青さを空に向け朽ちるまで草々の蔓のびゆけり

ゆるりと西日をうけて入院の父の綿髪（わたげ）に光の入りぬ

こんなにも秋の近づく線路かな薄の原のひとつ柿の木

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時の間にのびてゆく川幅に向かいて立ちぬ杭の幾本

夕暮れの電線にのり鳴く蝉の藍の空気は平たくありぬ