ひよろりととんびのつくるそらの穴わきいでて声のする

水仙の球根掘りの背まるく深くと傾けり

長き葉を束ね抜く　切れた根の見えぬくらさかな

黒土の深き穴より球根の白根かかげて　ほがらか

　　波をゆする陽をみたか陽を突き上げる海をみたか

立ち上がる波に若布も伸びあがり巻かれて走る砂の浜

浜の子の黄色い帽子赤い帽子と散り跳ねて波の粒

砂浜の海草の実をつぶしつつ波の泡の生まれけり

　　穂の風につつまれて立つ家にまわる五月の風車

赤い実をくわえた鳥の行く先をはかりかねる眼のめぐり

ゾウの鼻たかくながくとのびゆきて風吸えり

毛虫の子西のひかりに生まれたりあした壊れる板の塀

　　うすき藍ひとの暮らしの時の息夕餉の支度の蓋のおと

アルバムに祖母かがまりて洗いおりセピア色の盥の子

梅林までの道すがら田のしずもりに子のランドセル

迷い道母の手を引く畦道に木小屋の屋根の傾く日暮れ

　　落ちゆく夕日に残された里の田畑と柿の道

ほっとりと老人のいる木椅子に藤の　花　花　落ちおり

栴壇に吹く風も　むかし　祖父の語りとなりて過ぐ

思い煩うことも土平らかにして終わらんとす　家の跡

　　枇杷ののこる葉脈摺り音ずらす　空っ風

水音の絶え間なく焼き場のうちに一人また一人と焼かれ

紅葉は赤くゆれおり冬風を裂くほどの切り込み深く

つぎつぎと焼かれてゆける連なりも数珠のめぐりに触れつ

　　筆の線白を伸ばして壁となるポトリと人を置いた横から

人を描けば線まるくありて群れ重なりて深くあり

小高い山に挟まれた街の息づきするりするりと連なる車輌

　　丘のみどりの上に真青く　鳶しずかに時はゆくなり